就職活動では,大学教授にメールを送ることはまずないでしょうが,他の大学の先生に問い合わせたり,何かの依頼をしたりすることはあるかも知れません。そのケースではどうすべきかというと,「先生」を使いましょう。下のような形なら当たり障りがないでしょう。
古都大学古代社会学部 准教授もちろん,自分の担当教員に何かを依頼する時には,もっとくだけてもいいのです。ゼミや授業担当の先生相手なら,「○○先生」だけで十分。相手が自分を知っているかどうかなど,人間関係の距離感を考慮して,ことばを使い分けることが大切です。
大和卑弥子先生
「すべからく」が「すべて」の意味に誤解して使われているという話。これはかなり広まってしまっているらしい。さらには,「すべからず」という不思議な副詞さえもが登場しているというはなしが。
このところ,文語的な言葉遣いを好んで,ただしまちがって使っているケースが増えているような気がするので,気がついたらメモしておこう。
今日の asahi.com のスポーツ記事。
日本、ベトナムに4―1とリード アジア杯これが普通の文になるように補ったとすると,
日本はベトナムに4―1とリードされている,アジア杯で。
日本はベトナムに4―1とリードしている,アジア杯で。さて,どっちが日本語として素直だろうか。上か。それでは意味が逆転してしまう。記事を読んでみると,日本はベトナムをリードしているのだが,よく分からない。この見出しはもっとも重要な情報についてあいまいな解釈を許してしまうのだ。
つまりこれはどう書くべきかというと,
日本、ベトナムを4―1でリード,アジア杯としておけばいいのだ。天下の朝日のデスクにして,こんな文章のまずさである。 しかし朝日にかぎらず,この国中が論理的な文章感覚をなくしているかのように感じてしまうのだ。
ニュースでは,「男(おとこ)」とか「女(おんな)」と言った場合には,容疑者とか被疑者(この言葉は本来よろしくないのだが)を指すことになっていて,善良な市民は「男性」とか「女性」とか呼ぶことになっている。これっておかしくはないか?
考えてみれば男性とか女性というふうに男女を呼ぶようになったのはごくごく最近のことで,つい20年ほど前では男はそのまま,女は婦人といっていた。それが今では,男のほうはまだしも使えないわけではないが,女という呼び方は, 普通の人間を指すためにはまったく使えない雰囲気ができている。「オンナ」は悪いやつ,犯罪を犯す女とか,男を誘惑する悪女とか,テレビでも新聞でもそんなふうになってしまっているのだ。「男」も似たような状況ではあって,名前を呼び捨てるような感覚で使われている。普通人には「男性」,「女性」しか使ってはいけないらしい。
こんなくだらない慣習を作るのはやめよう。ことばにくだらない縛りをかけてしまったら,去勢された姑息な言葉だけをひそひそとささやくような生活になってしまう。一人前の男,堂々と胸を張る女,そんなダイナミックな表現が言葉の世界から失われてはいけない。
「オンナ」という言葉には,「オトコ」よりもずっと強く性的なイメージがあるのかもしれない。「ヤクザの女」といえばヤー公の情婦なわけだが,その逆のケース,たとえば「あの女優の男」も情夫の意味をもつことは持つのだが,そんなに使われることはない(ヒモなんてのは男っぽくないしね)。「オトコ」だってそれなりに成熟したイメージをもつものだから,程度の差こそあれ,男,女というのは性的な雰囲気を感じさせる。
しかし立派な男,女というのは,性的にも魅力があって当たり前ではないか。匂い立つようないい男,いい女って感じかな。こんなたっぷりとした語感を捨ててしまってはまずい。萎縮なんかしないで 積極的に「男」,「女」を使おうではないか。
世は,「〜させていただきます」の全盛時代です。手紙やメールではこればっかりが やたら目に付いてうるさく感じることがあります。おまけに次のような誤用も見かけます。
書類を送らさせていただきます。正しくは次のようにします。
明日の午後1時に伺わさせていただきます。
書類を送らせていただきます。この種の誤用がなぜ起きるかというと,使役動詞の活用がきちんと飲み込めてない ことにあるので,活用形をよくみて,「送らさせて」→「送らせて」,「伺わさせて」→「伺わせて」とすれば,一応妥当です。下に使役動詞の単純な用例と誤用の例を示しますから,訂正のポイントをつかんでください。
明日の午後1時に伺わせていただきます。
部下に書類を送らせる。(誤:「送らさせる」)どうですか?これなら誤用が多少は明確に意識できるのではないでしょうか。
息子を午後1時にお宅へ伺わせます。(誤:「伺わさせる」)
しかし,ここで主張したいのはもっと別のことです。以上のような小手先の修正ではなく,敬語表現そのものの幅を広げたり,あるいは他の言葉を探してきて,ふくらみのある文章を書くことをお勧めしたい というのが,私の言いたいことなのです。そもそも日本語は文末の形がそろいやすいという 特性を持った言語ですから,言い切りの形にどれだけ多様性を持たせられるかは, 文章術においてかなり重要な勘どころになることを意識してください。
そこで上の敬語をほかの表現に言い換えてみることにしましょう。
書類をお送りいたします。私はこちらのほうがずっとすっきりしてきれいだと思います。丁寧さも 感じられます。
明日の午後1時にお伺いいたします。
あるいは「〜させていただく」でも,次のようにするとぎこちなさがなくなります。
書類を送付させていただきます。この場合,「送る」→「送付する」と言い換えておいて,「送付させる」という 使役の形にもっていっています。「する」→「させる」の対応は単純なので, 意味上の混乱が生じる可能性が少なく,頭にすっと入るわけです。 ただしもっとも肝心なことは,このようなさまざまの表現法を適宜使い分けることによって,文章を単調さから救う ことだということを忘れないでください。
明日の午後1時に訪問させていただきます。
さて,ごてごて着飾った悪趣味な ファッションといった文章にしないためには,もうちょっとした心がけが 必要です。「表現の重複,特に敬語のそれはなるべく避けよう」という原則です。それはまた次に。
わたしがもっとも好きな手紙として一番に挙げたいのは,金田一郎に裁判長が 送ったものです。
かねた一郎さま 九月十九日出典は言わなくても知っている人が多いことでしょうが, 宮沢賢治の「どんぐりと山猫」。 でも就職希望先の人事部長には出さないほうがよろしい。
あなたは、ごきげんよろしいほで、けつこです。
あした、めんどなさいばんしますから、おいで
んなさい。とびどぐもたないでくなさい。
山ねこ 拝
次のような頭書きのメールや手紙をいただくことがあります。
京都女子大学 現代社会学部中には「教授殿」とか「教授先生」というのもあります。えらそうなことを言う ようで申し訳ないのですが,これはいただけません。地位や肩書きに敬称を付ける のは 形としてはよくないのです。たとえば「社長さん」とか「社長様」というのも,お 店で接待するときにはありえても,ちょっと品がありませんよね。フォ ーマルな場で使う語法では ないのです。したがって次のような形もよくありません。
小波秀雄 教授様
東山放送株式会社適切な形は次のようなものです。
清水寺男 人事部長殿
東山放送株式会社 人事部長「殿」の代わりに「様」でもよろしい。女性からだったらむしろ「様」の方が 柔らかい印象になってよいともいえます。
清水寺男殿
メールで企業に就職情報を問い合わせたり,自己推薦書などを書いたりすることは,就職活動の重要な作業です。このとき,なんと「言葉」を使わなければいけません!
いや,もちろんそんなことは当たり前ですが,しかしいつも使っている言葉とはまったく かけ離れた言葉遣いをせざるをえなくなる学生も多いみたいです。すると珍妙な敬語がいろいろと飛び出してくるわけです。ここでは実例をもとに,にわか仕込みの文章のボロ隠しの方法を伝授することにしましょう。と,とりあえず今日はご挨拶まで。
ニュースや何かの本で,こんなせりふがよく出てくる。
クラシックというとしかつめらしい顔で聞かなければならない堅苦しい音楽だと思われるかもしれませんが・・・こういうのを読むと,「おいおい,それってぜんぜん逆効果じゃないの?」とぶつぶつ独り言してしまうのだ。こんなふうに 最初に先入観を呼び覚ましてからそれを否定しようという論法は,もし相手がそういうのを強く持っていれば,はなっから相手にされないだけだし,持っていなくても,「ああ,そういうものなんだな」と思い込ませてしまうことになるだろう。
数学なんて素人にはとっつきにくい難しいものと思われがちですが・・・
こういうくだらない決まり文句の前置きはやめて,単刀直入,
ベートーベンの運命って,聴くと元気が出ますよね。こんなふうに切り出せば,どんなにかすっきりして,聞き手や読者に余計な思い込みを与えずにすむことだろう。
ショパンのピアノ曲ってとっても華麗で美しいですよね。
18世紀の天才数学者が出した問題がなんと200年余りもかかって証明されたんだそうです。
何か前置きをしてから話題を切り出さなくてはという思い込みが,紋切り型のせりふを言わせてしまう。強迫観念みたいなものに惑わされずに,話は生き生きと,すぱっと切り出そう。