粒子の拡散と揺らぎを調べるためのコンピュータ実験

小波秀雄


注意: このコンテンツには MathML による数学記号の表記が 含まれています。次の行は数式(2次方程式の解の公式)としてちゃんと読めていますか?
$x = \frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$
上の行が x = \frac{-b}\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a} のような表示になってしまって ちゃんと読めない場合, 正しく読むためには MathML の表示のための 数式フォントが必要です(京都女子大のWindows教室と(たぶん)京女高校のWindowsPCにはすでに インストール済みです). 自宅などでやる場合には,Firefoxを 次の手順に従ってフォントをインストールしてみてください. → Firefox のインストールとその他の設定の手順 . 手間は簡単ですし,その後も便利に使えます。

課題

以下の説明を読み,また組み込まれているシミュレーションを実際に行って, 説明に沿ってデータを解析しなさい。 文章は長いですが,くわしくていねいに 説明してあるので,じっくり読んで進めればだれでもデータの処理はできるはずです。 具体的には,次の順序でレポートを作成しなさい。 なにをどうするかという指示は, 文中の下線を引いたところで強調しています。

  1. $N = 40, 120, 400$ の場合についてのシミュレーションの結果から 文中に現れる $F$ や $F/N$ を求めなさい。
  2. さらにその結果を利用して, 容器に入った $3\times10^{23}$個の 気体分子のケースについて, 圧力の揺らぎの幅とその出現確率に関する 関係を,文中の記述にそって求めなさい。これは全容積が 10 L あまりの容れ物 の中にある気体を想定しています。 平方根の計算の仕方が分からない人のために
  3. 上の結果がどういうことを意味するのかを,下の解説を参考にして書きなさい。
  4. 解説と配布されたプリントを読んで, エントロピーが増大するというのが, ものの変化の法則であることを 説明しなさい。この問はとても深くて広いのですが,とりあえず読んで自分の文章で 書きなおせばよろしい。


実験の目的

体積の等しい2つの容器をバルブのついた管でつなぎ,最初 片方だけに気体が入っているものとします。バルブを開いて 気体が自由に出入りできるようにしてやると, 両方の容器が等しい圧力になるまで気体が移動して, その後はそのまま釣り合いが保たれます。 これは一体どうしてでしょうか。

気体の入った 2 つの容器をつなげば,どちらの 圧力も 等しくなることは,中学の理科でも 教えます。しかし分子運動のレベルから理解することは,高校の物理でもきちんとは 扱えません。 それをシミュレーションで実験して理解したいのです。 その過程を追いながら,乱雑さの増大(エントロピーの増大)が 自然の中で起きる変化の必然的な方向であることを認識することが, この実験で掴んでほしいことです。 なお,高校で 物理をやってないからといって,尻込みすることはありません。以下の通りに 進めれば,ちゃんと定量的に把握できるはずです。そしたらその部分の物理は分かったということなのです。

実験の方法

fig1 下にはI, II, III と3つのリンクがあります。これらを 開くと,最初右側にだけあった粒子のそれぞれがランダムに動き回りながら, 徐々に左側に移動していくのが観察できます。 そして,左右の数がほぼ同数になったところで,平均値を中心にして 数がランダムに変動するようになるはずです。この状態は 平衡状態と呼ばれます。 左の図はそのようすを示したものです。

さて,この図をもう少しよく見てみましょう。下に左右それぞれの容器の中に ある粒子(分子)の数が示されています。つまり,この瞬間は左に33個,右に37個ある状態です。

粒子の数は全部で70で,その平均は35ですから, 左は2個少なく,右は2個多い状態です。そこでここでは右を基準にして, このときの揺らぎは +2 であるということにします。 つまり揺らぎというのは平均からのずれ(偏差)のことです。

さて,言葉や図の意味が分かったところでいよいよ実験です。 次のように進めてください。

  1. Iのリンクをクリックしてください。上手なやり方は, 右クリックして「リンクを新しいタブで開く」を選ぶことです。 そうすればこの文章も途中で覗きに来れますね(ブラウザとしては Firefox を使うことを前提にしています)。
  2. 左右の数字がほぼ等しくなるまで待ってください。
  3. 左右が大体つりあったら, そこからデータを取り始めます。次のようにして下さい。
  4. 画面にPAUSEというボタンがあります。これをクリックすると, 1秒間だけ静止しますので,左の方の数字を読んで メモします。
  5. 5秒以上の間を置いてこれを50回やってください。 そんな大変だ!と思うかもしれませんが, 仮にメモまで含めて10秒かかったとしても 8分ほどで終わります。つまり10分で1セットのデータが得られるのです。
  6. II, III についても,同様にしてデータをとってください。 後は下に移ってデータの解析です。


実験結果の解析の方法

揺らぎのデータを度数分布表に集計する

粒子の数を $N$ とします。 上の実験では $N$ は 40, 120, 400 の 3 通りです。 この場合得られるデータの平均値は $N/2$ で あると期待されます(実際にそうなるのは無限に沢山のデータを集めたときの ことですが)。これを期待値といいます。平均値といってもいいのですが, それだと実際に得られたデータの平均との区別がややこしくなるので,期待値 としておきましょう。

とりあえず $N = 40$ として説明していきましょう。 期待値は 20 になりますね。
そして,データが次のように得られたとします。 みなさんは自分でこのような実験をやって, ここで解説しているのと同様にデータの処理を進めてください。


23, 22, 21, 19, 17, 17, 18, 21, 19, ...
これらのデータの偏差を求めます。それには上のそれぞれから期待値の 20 を引けばよろしい。すると次のようになります。

3, 2, 1, -1, -3, -3, -2, 1, -1, ... 
こうやって得られた数字を度数分布表にします。つまりここに書かれている例では -3 は2回,-2 は1回,-1 は2回,…となっていますから。それを次のように集計します。 よく選挙の票を数えるのに 5 ずつひとまとめにして正の字を書いていきますが, そのやり方でもよいでしょう。

-3 -2 -1 01 2 3
2 1 2 02 1 1

データ数は 50 でしたから,最終的に次のように集計された度数分布表が完成することになります。偏差の大きさは実験のつど変わりますから,この表の幅も多少変わります。

-7 -6 -5 -4 -3 -2 -1 0 1 2 3 4 5 6
1 0 3 2 4 6 7 8 6 5 5 2 0 1

70%のデータを含む領域を求める

データのまとめにかかります。 上のようにしてできた度数分布表で,中央の 0 の位置から左右対称に見ていって, 70% のデータ数が含まれる幅を見つけます。ここではデータ数が 50 なので, 35 個が含まれるのはどの幅の中かということです。

上の表の場合,中心の 0 から, -1, 0, 1 の$\pm 1$ の幅に入るのは $7 + 8 + 6 = 21$ですね。同様に $\pm2$ の幅には 32, $\pm3$ の幅には 40 が入ります。ぴったし 35 が入る整数の値はないので, $\pm2$ と $\pm3$ の間のどこをとるべきか, 比例配分で小数第一位まで決めてやると,$\pm2.4$ ということになります。 比例配分計算が分からない人は,別項の解説を参照してください。 こんなふうにして,この区間の幅を表す数値として 2.4 が求まりました。

以上の手続きを,$N=120$, $N=400$ の場合についても実行して, データの 70% が含まれる区間の幅をそれぞれ求めてください。 ここでは仮に,それぞれ 4.0 と 8.1 が得られたとします。 これで細かい計算は終了で,あとは並べて整理するだけです。

データを解析して正しい相関を知る

上のようにして集計して得られた,データの 70 % を含む区間の 幅を,$F$ としましょう。粒子数 $N$ と $F$ の相関を知るのがまず 最初にやる作業です。これまで得られた数値を入れて, 次のような表を作ってください。 もちろん,みなさんの場合にはこれとは異なるものになるはずです。

$N$ 40 120 400
$F$ 2.4 4.0 8.1

さて,$N$ と $F$ の間にはどんな関係が成り立っているでしょうか? $N$ が増えると$F$も増えるので,ちょっと正比例関係とも思えますがどうでしょう。 それを調べるために,$N/F$という値を計算してみてください(Windows の電卓も 使えますからお忘れなく)。この例では  ${40}/{2.4}$,  ${120}/{4.0}$,  ${400}/{8.1}$ を計算して並べてみるのです。 それらがどれもほとんど同じだったら,正比例ということになります。 どうでしょうか?どうもそうはなりそうもないですね。

calc ここでデータをよく見ると,$F$の大きくなり方は$N$のそれに比べて「鈍い」ことが 分かります。上のデータで言うと,$N$ が 40 → 120 と3倍になるときに $F$の方は 2.4 → 4.0 と 1.7 倍程度にしかなりません。 $N$ が 40 → 400 と10倍になるときには, $F$の方は 2.4 → 8.1 と 3.4 倍程度です。

そこでよくよく考えてみると,3に対する 1.7,10 に対する 3.4 というのは,ある数と その平方根の間の関係 のようです。そこで今度は表の項目を1つ増やして,$\sqrt{N}$ というのを入れてみましょう。Windows の電卓を使って平方根を出すには,数値入力 の後で sqrt というボタンを押してやります。

$N$ 40 120 400
$\sqrt{N}$ 6.3 11.0 20
$F$ 2.4 4.0 8.1
$\sqrt{N}/F$ -- -- --

こうしておいて,今度は $\frac{\sqrt{N}}{F}$ という値を出してみましょう。 それぞれの場合について計算してみて ください。すると3つの場合で 大体同じであることが分かります。 つまり $F$ は, 実は $N$ の平方根に比例する量であることがここで理解できるでしょう。

そこで, $N$ が40, 120, 400 のときの $\frac{F}{\sqrt{N}}$ の値の平均をとって その比例定数としておきましょう。ここの例で計算してみると, 0.38 がその値になります。 自分のデータを使って実際に計算してください。みなさんがやった場合には,これに多少近いものの, 異なる値になるはずです。この定数を知っておけば,$N$ の任意の値について $F = 0.38 \sqrt{N}$ として $F$ を推定できます。 この値も求めてください。

揺らぎの幅は全体のうちのどれくらいか

ついでに次のようなことを考えておくことは有益です。それは, 揺らぎの広がりの幅($N$)が分布全体の幅に対してどうなっているかという点です。 つまり,揺らぎとして可能な範囲というのは,左の箱にまったく粒子がない状態から, 逆に $N$個すべての粒子が左の箱に入っている状態まで,それぞれの実現確率は ともかくとして,すべての場合がありうるはずです。つまり 0 〜 $N$ というのが,可能性のある 揺らぎの幅です。そしてこの実験の結果では,その幅の中のどの 区間に 70% の揺らぎが収まるかを確かめました。 ここでの探求は,可能な幅の中のどの範囲に 大半の揺らぎが収まるかに関心を持って調べたいのです。 その「絞られ方」はどういう値で表されるでしょうか?それは

$F/N$
という値がどうなっていくかを見ればよいはずです。実際に $N = 40, 120, 400 $について 計算してみると,その値は 0.06, 0.033, 0.020 と漸減していきます。つまり, 粒子の数が多いほど,その揺らぎの割合は減少するというわけです。 実際に自分のデータを使って求めて,このことを確認してください。

粒子数が多いときについて予想する

実際の容器の中の分子の数は無数にあります。とはいえ無限にあるわけではなく, 常温,1気圧だったら 1 L の容器に気体の分子はざっと $3\times10^{22}$個ぐらい あります。アボガドロ定数という言葉とともに高校の化学で教わったことを思い出す人も 多いのではないでしょうか。

さて, 連結した2つの容器の右側の方に,上の量の気体を入れた としましょう。容器はそれぞれ 0.5 L の容積をもっているとします。 すると,右の容器に閉じ込められているときの圧力は 2 気圧,そのとき 左側の容器の中は真空です。この状態から間の仕切りを開くと 気体は一瞬にして移動して両側を満たし,両側の分子の数が 釣り合う結果,圧力も等しく1気圧になります。 そのことはほとんどの人が 当たり前のことと思っているはずです。しかし,そのプロセスの本質は, ここのシミュレーションで見ているような分子の拡散がもつ 確率的な本性なのです。

だとすると,このように気体を容器に分けて入れているような場合には,ど れほど正確に圧力の釣り合いが保たれるのでしょうか。 容器の中の分子の数に揺らぎがあるということは, 圧力はたえず微妙なずれを起こしているということです。 普通に理科や物理で 教える「つながっている容器の中の気体の圧力はどこでも等しい」という法則は,その意味では近似的な ものにすぎないはずです。ならば,この法則には どれほど厳密性があるのでしょう。 その答えは,この段階なら簡単に出すことができます。

なお,ここでは容器の中の気体分子の数が,気体の圧力に比例すると して,考えを進めます。

まず,粒子数は $N = 3\times10^{22}$ですから,これから上で得られた比例定数を 使って,揺らぎの範囲を示す $F$ を求めてください。0.38 ではなく,自分で求めた比例定数を使うのですよ,念のため。さ らに$F/N$を求めてください。 この値はどれくらいになるでしょう?・・・ 正しく計算していれば非常に 小さい値,ざっと $10^{-11}$ 位になるはずです。 上で $N = 40,120,400$についてやったのと同じようにして実際に計算して, 自分で数値を出してください(→注意)。

粒子数の揺らぎの割合が$F/N$が$10^{-11}$,つまり千億分の 1 であるということは, 圧力が容器の中の粒子数に比例することを考え合わせると, 1 気圧 であるべき圧力が,ほんのわずか $\pm0.000 000 000 01$ 気圧(千億分の 1 気圧)以上 外れる 確率が 30 % 程度あるということです。もちろんこんなわずかな圧力の差は測定不可能です。

まぐれで気圧が変動する確率は?

calc もっとも,10 回 に 3 回はこれより大きな揺らぎが起きるというのでは大して 面白くありません。もっとちゃんとびっくりできる数値がほしいところです。それには統計分布 の知識を借りてこなくてはなりません。

この種の分布(正確には 二項分布といいます)で $N$が大きいとき,次のような結果が成り立ちます。 すなわち,2つに分かれた部屋の間を $N$ 個の分子が自由に動き回っているとして, 片方の部屋の中の分子の数を数えてそれを $x$ とします。すると $x$ は, 期待値 $N/2$ を中心にして左右対称に分布します(右図)。

上で見たように, 期待値の前後で 70 % のデータが入る幅が $F$ です。 二項分布の性質から, $\pm5F$ の幅の間には,だいたい 0.9999995 の確率でデータが入ることになります (この数字は統計学を学ぶと意味が分かります。ここでは天下りの数字として 使っています)。 右の図に $\pm5F$ の幅をとってありますが,確かにその外側には ほとんど分布はありません。 さらに$\pm10F$ の幅をとると,その中にデータが入る 確率は実に 0.999 999 999 9999 9999 999 999 98 = 1 - 0.000 000 000 000 000 000 000 000 2 となることが,二項分布の性質からわかります。つまり $2\times 10^{-23}$ の確率で しか,分子数$x$ は$\pm10 F$ の幅の外には出ないといってもよろしい。 $\pm10 F$の幅が気圧の揺らぎとしてどれだけになるかというと, 上で得られた数値を使うと $10F/N$, つまり $10^{-10}$ 気圧だけ1気圧からずれる確率が,わずか $2\times 10^{-23}$ であるということになります。これはものすごく小さい確率です。

つまり,この結果を ざっというならば,1兆人が1兆回カウントしたとして,気圧が1気圧からたった 100億分の1だけ外れるという現象を見る回数が 20回ばかりあるだろうということです(→計算の根拠)。 やってみますか?・・・って,だれもそんな無謀なことは考えませんね。 まして,ふつうに気体が入った容器の中で, 観察可能なほどの圧力の揺らぎが起きるというのは, 宇宙の歴史全部を通しても起こりえないほどの確率なのです。


解説

気体の圧力がどこでも等しいのはなぜだろう

ドアを挟んだ2つの部屋の圧力は等しいというのは常識です。 ふつうは圧力が高い方から低い方へと空気移動していってバランスするという ふうにこれを解釈します(これも間違いではありません). しかし,ここで問題にしているように,粒子の集まりとして空気を眺めたとすると, つながれた2つの容器の中の気体の圧力が等しいというのは, 実は確率的な現象なわけです。 ただし,実際に観測できるほどの圧力の揺らぎが起きる確率は, 上でみたようにほとんどゼロですから,私たちの目には気圧が一定だという ふうにしか見えません。

今回の実験では,2つに区切られた容器の間で,気体の分子の数が高い確率で「ほとんど平均に一致する」という 数のバランスが実現することを確かめました。 実際には,ある容器の中のいたるところで気体は同じ圧力になる ことが知られています(パスカルの原理)。それを実証するにはどうしたらよいでしょうか?

それには容器を2つではなく,もっと多数の容積が等しい部屋に区切ってみて, それらの中でほとんど同じ粒子数が保たれることを実験すればよいわけです。 とはいえ,そこまでやらなくても,今回の実験の結果を見るだけで, 気体は,ランダムに動き回る結果として, 空間をどこでも同じ密度で満たすことになるということは理解できるでしょう。

エントロピー極大を目指して分子が移動し圧力がつりあう

講義では,ものの状態は乱雑さが増大する方向へと 変化する,すなわちエントロピー増大が変化の方向を決める 原理のひとつであるということを紹介しました。 そのことと,ここまでやってきたシミュレーション実験との 関係について解説しておきましょう。

エントロピー$S$というのは,次のように「系が取りうる状態の数 $W$」を使って 定義される量でした。

$ S = k \log W $, ($k$ は定数)
要するにエントロピーは「乱雑さ(=取りうる場合の数)の尺度」(講義テキスト)なのですが, これは上のシミュレーションで調べた分子数の揺らぎとは,そのままでは 対応させにくいものです。なぜかというと, 容器の中の気体のもつ乱雑さ=容器の中で多数の気体がとりうる 場合の数というのは,今の段階で計算するには 理論的な武器が足りないのです。

ただし,次のようにいうことはできそうです。 今,40 個の分子を等しく20個ずつに分けるやり方を 数えてみると,次のようになります。

$A = \frac{40!}{20! 20!} $
この分子を一個だけ片方に移して21個と19個にしたとすると, 次のように分配のやり方の数が変化します。

$B = \frac{40!}{21! 19!} $
$A$ と $B$ではどちらが大きいでしょうか。 それを知るために $A/B$を計算してみましょう。 式の中の階乗を$20! = 20\times 19\times \cdots 2\times 1 $ のように展開して約分してみれば $A/B = \frac{21}{20} > 1$ となりますから,$A > B$です。 20 個でなく任意の数でも当然同じことになります。 つまり, 二等分された分子たちから1個をどちらかに移すと, とりうる場合の数は必ず減少するのです。 つまり,気体の分子たちは,それを2つの容器に当分に分ける やり方が最も場合の数が大きいということになります。

上の論法は必要な前提をかなり省略してしまっているのですが, 大雑把には,容積の等しい2つの容器に分子を分配するやり方は 等しい数に分配するときが最も多い,つまり, 分子が等分されているときに最もエントロピー(乱雑さ)が大きい ということはいえそうです。

つまり,今回のシミュレーションの結果を乱雑さ(とりうる場合の数)という 観点から見た場合でも, 乱雑さが最大になるように状態が移動していく, つまりエントロピーが増大する方向に変化が進行するという 原理が成り立っているのだということになるわけです。

温度がどこでも等しくなるのはなぜ?

温度が異なる2つの物体を接触させておくと,熱は 高温から低温の物体へと移動して,最後には両方の温度が均衡して等しくなります。 これは私たちが知っている基本的な物理法則,つまり人が知る限り 例外なく成立している普遍的な原則とみなせるほどに「強い」 法則です。これを仮に「温度均衡化の原理」と呼んでおきましょう。

さて,今回シミュレーション実験を試みた気体の圧力の均衡化という 現象と,「温度均衡化の原理」の間にはかなりの類似点があります。 気体の方では分子が移動していって,圧力が平均化されました。 一方,物体の温度のほうは,熱が移動していって温度が平均化されている わけです。つまり,

圧力均衡化:分子 ←→ 圧力
温度均衡化: ←→ 温度
この対応には何かしら共通するものがありそうです。つまり,もしも 熱というものが分子のように粒粒のものであって, 物体はその粒粒の容器だというふうな見方ができたら,ひょっとして まったく同じようなアナロジーで温度均衡化の原理も説明できるのではないでしょうか。 また,温度というのは言ってみればエネルギーが出て行く圧力みたいなものとも みなせないのでしょうか。 これらはいずれも妥当な予想なのです。

ただし,温度の議論については いくつかの前提が必要です。たとえば熱エネルギーというものも 分子や原子のようにエネルギーの粒として振舞うことが必要です。 このことはマックス・プランクというドイツの物理学者が提唱して, 革命的な成功を物理学にもたらしました(一方,今回のシミュレーションでイ メージしている ような気体分子の運動の確率的な性格というのはオーストリアの ルートヴィッヒ・ ボルツマンが 明らかにしました)。

エネルギーの粒は「エネルギー量子」と呼ばれます。この振る舞いは気体分子のそれとは いろいろと異なるのですが,大切なことは,エネルギー量子を2つの物体に配分するとき, 最も確率的にありうべき状態では,両方が同じ温度になるということです。これは 気体の分子が連結した2つの等しい容器の中に置かれたときに,双方の 圧力が等しいときこそ 最も確率の高い状態なのだという, このシミュレーションの結果とまったく同じ形なのです。






比例配分の計算のやりかた

比例配分というのは次のような計算です。下の図を見てください。

fig2 たとえばメートル法の物差し A と,それとは尺度の異なる (鯨尺の とか,アメリカやイギリスのインチ尺みたいな)別の物差し B を,適当な位置で合わせたような状況を考えます。 そして, $a_1 \leftrightarrow b_1 $, $a_2 \leftrightarrow b_2 $ のように数字が対応しているとしたら,A の $m$ に当たる点は B の物差しでは どんな値になるでしょうか?これが比例配分の計算を行う典型的な例です。こういうのって よくありますね。

あるいは ここでの問題に沿って より具体的にいうと,図に書き込まれているように, 左端の 32 のところが 2 に,右端の 40 のところが 3 に当たるとして, 35 のところは何に当たるだろうか,ということです。 ここまで読めばやり方を思い出す人もいるでしょうが,とりあえず下に説明しておきます。

図から次のような比例関係を見出せます。

$ \frac{m-a_1}{a_2-a_1} = \frac{x-b_1}{b_2-b_1}$
これを変形して次の形を得ます。
$m = b_1 + \frac{b_2-b_1}{a_2-a_1}\times (m-a_1) $
図に書き込まれた数値を使って実際に計算すると, $x = 2.375$ が得られます。

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平方根()を計算する

$\sqrt{3\times10^{22}}$ の計算ができないという人がいるようです。 次のように考えて自分で答えを導いてください。

積の平方根は平方根の積

$ \sqrt{a\times b} = \sqrt{a}\times\sqrt{b}$

つまり2つの数の積の平方根を得るには それぞれの平方根をとってから掛け合わせてもよいのです。 ですから,次のように書き換えることができます。 $\sqrt{3\times10^{22}} = \sqrt{3}\times \sqrt{10^{22}} $

$\sqrt{a^b}$はどうやって計算する?

次に,$\sqrt{10^{8}}$のような値 を計算するのにはどうしたらよいかという問題です。 これは次の式を眺めればわかるのではないでしょうか。

$10^8 = 10 \times 10 \times 10 \times 10 \times 10 \times 10 \times 10 \times 10 $
$= (10 \times 10 \times 10 \times 10) \times (10 \times 10 \times 10 \times 10) = 10 ^4 \times 10^4 $

よって $ \sqrt{10^8} = 10^4$ となります。一般的に書けば次のようになります。

$\sqrt{a^b} = a^{b/2}$

$3\times10^{11}$の平方根は?

この場合,11 が奇数だから半分に割って整数になりませんね。どうしたら よいのでしょうか。簡単です。次のように書き換えればいいのです。

$\sqrt{3\times10^{11}} = \sqrt{30\times10^{10}}

もちろん $\sqrt{30}$ の値は電卓などで計算すればよいのです。

練習

次の問題で理解を試しておきましょう。解答は下にあります。

  1. $\sqrt{50000} $
  2. $\sqrt{5.6\times10^{16}} $
  3. $\sqrt{5.6\times10^{17}}$
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非常に小さい数の表し方

指数表示という表記法を使います。たとえば, 0.0045 であれば,$4.5\times10^{-3}$, 2340000 であれば $2.34\times10^{6}$とします。 もう少し親切にやり方を書くと,次のようにして変形してやればよろしい。

$0.0045 = 4.5 \times 0.001 = 4.5 \times10^{-3}$
$2340000 = 2.34 \times 100000 = 2.34 \times10^{6}$

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どうして70%のデータなのか

ここで扱われている分布は二項分布と呼ばれることを本文で紹介していますが, $N$ が十分に大きいとき($N \ge 50$程度で十分),二項分布は正規分布 という分布とほとんど一致します。 そこで正規分布で使われる結果をここでは利用しています。 すなわち,ここで $\sigma$(シグマと読みます) で表されている量は標準偏差 というもので,正規分布ではデータ $x$ が $-\sigma\le x \le\sigma $ の間にある 確率は 68.3 % となることが知られています。それをここでは約 70 % と して扱っているのです。

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計算の根拠

$2\times 10^{-23} = 20 \times 10^{-24}$, 一方, 1兆 = $10^{12}$ だから,$10^{-24}$ は1兆分の1のさらに1兆分の1。 したがって,$2\times 10^{-23}$ という確率で現れる現象は, 1兆人がそれぞれ1兆回観察して,平均して20回見ることができるはずです。 もちろんこんな確率は事実上ゼロで,こんなことはありえないとしてよろしい。

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理論的な武器

容器の中の気体が何通りの状態を取りうるかを数え上げるためには, 気体の分子が,空間の中のどこにでもいられて,どんな速度でも 飛べるというというほとんど自明の前提を捨てなくてはなりません。 そうだったら状態の「数」などというものは考えようがないからです。 たとえば 1 m の幅のどこにでも分子がいられるとしたら, それをどこに置くかという可能性は無限大になりますね。

そこで 空間の中には分子が入ることのできるごく微小な「箱」 のようなものが多数あって,そこに分子が入っていくという イメージで捉えないと,「場合の数」を計算しようがないのですが, 分子が走り回っている自由な空間の中を区切るそんな「箱」のようなものが あるとは思えません(実際ありません)。その矛盾を乗り越えるには 量子力学という難物が控えていて,これは物理や化学を専攻する 学生が3年生以降に勉強する難関のひとつなのです(ちゃんと理解できる学生は その中でも少数派です)。


「平方根」の正確な定義

ある数の平方根は一般に2個存在します。たとえば100の平方根は 10 と $-10$です。つまり $a$ の平方根は $\pm\sqrt{a}$ とするのが数学的には正しいのですが,ここでは負の平方根を使うことはありえないので,ことばの簡略化のために正の値だけを指して平方根といっています(高校の数学の 答案だったら減点されます)。


平方根の計算練習の 解答
  • $\sqrt{50000} = 224 $
  • $\sqrt{5.6\times10^{16}} = 2.37 \times 10^8 $
  • $\sqrt{5.6\times10^{17}} = 7.48 \times 10^8 $