まず、放射線治療については、専門の立場では、放射線医学総合研究所 がありますよね。 ここには、私の知り合いが、数名おりますので、もし必要であれば、 御紹介することはできます。 それから、東京大学医学部救急医学講座の前川和彦先生ですか。 文献としては、これもご存じのものと思いますが、私が調べられるレベルのものでは http://www.jaeri.go.jp/dresa/dresa/book/dc000440.htm、あるいは http://www.jaeri.go.jp/dresa/dresa/book/dc003160.htm, という文献が、 http://www.jaeri.go.jp/dresa/dresa/explain/ab000580.htm に紹介されていますね。
上記で引用した http://www.jaeri.go.jp/dresa/dresa/explain/ab000580.htm においても、 「ヨウ素剤は放射性ヨウ素の甲状腺への集積の防止、キレート剤 (プルシアン・ブルー)は放射性金属核種の体外除去のために使 われる。放射性ストロンチウムの排せつ促進には、低りん食が有 効である。正常の1/3程度にりん含量を低めた献立で十分に効果が ある。」 ということで、いろいろな方法があるようです。 その場合、放射性元素を体外に追い出すしかないわけですが、しかし それほど慌てる必要はないわけです。なぜならば、内部被曝がこわいのは 「弱くても、浴び続ける」ことにあるわけで、その意味で、時間はあると 思われます。
しかし、そんなことを言っていられないくらい、大量に 内部に浴びた(吸入した)場合には、話は別ですね。 なんらかの救急医療が必要と思います。 例えば http://www.nirs.go.jp/report/nenj/h11/2/2_5_5_1.htm のような方法などが研究されているようです。
これはまず、どういう放射線を浴びるかに依存します。 まず、アルファ線を浴びた場合には、皮膚が化学的(生物的)にやられる 程度であり、どこも、放射化はしません。通常のアルファ線のエネルギーは低いので、原子核と弾性散乱 をしてアルファ線が方向を変えるだけであり、原子核には何も変化を起こしません。
β線の場合も、通常のβ線のエネルギーは低いので、どんな原子核に 対しても、核反応を起こすには至らず、従って、放射化は無視していいです。 何が起こるかというと、単に、原子や分子を傷つけるだけです。原子核には 弾性散乱をしてβ線が方向を変えるだけで、原子核には何も変化を起こしません。
ガンマ線の場合にも、数MeV(2-3MeV程度)のガンマ線しか予測 されませんよね(例えば、コバルト60の場合、ベータ線が出たあとに、 その原子核はニッケル60になり、それから出てくるガンマ線としてエネルギーは 1 .17 - 1.33MeV程度のガンマ線しか出ません)。この程度のエネルギーであれば、 どんな物質(の原子核)も放射化はしません。一時的に励起することは あってもすぐに、もとの原子核に戻ります(従って物質としても、もとの 物質にもどり、安定であって、放射化はしていない)。従ってこの場合にも 放射化は無視していいです。
問題は、まさに、中性子線を大量に浴びた場合です。この時には、中性子の エネルギーは低くても、放射化は問題になります。なぜならば、中性子は まさに、中性であり、エネルギーは低くても原子核に吸収され、その原子核 を放射性核に変える(放射性アイソトープに変える)からですよね。
そこで、仮に100グレイ、浴びた人がいて、どの程度の放射能を 人体が持つことになるのか、考えてみます。 まず、人体のどの部分の放射化を考えるか、という問題があります。 そこで、最も大量にある水の(酸素原子核の)放射化と、 放射化しやすいことで有名な(例えば頭髪や骨の)イオウ原子核の放射化 について、考えてみます。
この場合にも、どのような(体内)放射化が問題になるか、という問題がありますが、 β線が出る場合は、とりあえず、無視します(大部分、体内自身で 吸収されるから、医療者には関係しないと仮定しておきます。本当は無視できませんが、今の 場合、より効果が大きいガンマ線が体内から出てくる場合を 考えておきます。) すると、反応としては、核反応として16O(n,p)16Nという反応でまず、 酸素原子核が窒素原子核に転換し、その窒素16原子核が、放射性である、 というものです。 しかし、このようにして出来る窒素16は、半減期がわずか7.13秒という 短さなので、すぐに「冷める」でしょう。 これが何秒後にどの程度であるかは、計算をしてみないとわかりません。 そこでこれを簡単に概算してみます。
まず、100グレイ浴びるには、1MeVの中性子を仮定して、どれくらいの 中性子数を浴びたかを簡単に計算してみます。起こる現象は、体内の水分中の 水素原子核と中性子との弾性散乱が主体だと仮定して、Phys.Rev.C22(1980)384のデータから反応断面積を1バーン程度 と仮定し、体重60kgの普通の体型の人を想定して、概算をしてみますと、 大雑把には、約6x10の15乗個の中性子を浴びたという計算になります。 この結果は、東海村のウラン臨界事故で全部で放出されたとされる 中性子数(約5x10の18乗個の程度)から考えても、それほど間違っては いないハズです。
そこで、これを仮定し、次に、酸素16に中性子があたって、np反応で 窒素16になる確率を考えます。核反応のデータベースから(そのものズバリ のデータではないですが、ここでは簡単に)、 Phys.Rev.127(1962)1229 のデータ を参考にして、今、このnp反応の全断面積を仮に、10mbと仮定しておきます。 すると、今の場合、放射化して出来る窒素16の数は、約3x10の13乗個 となります。 酸素16から放射化して出来た窒素16から出る、β線とガンマ線の エネルギーの平均的は、次のデータ: http://hpngp01.kaeri.re.kr/cgi-bin/decay?N16+B-を参考にして、 β線で約4MeV であり、ガンマ線では約6MeVであるとします。 ここで、β線のエネルギーは比較的高いですが、ここでは無視して、 ガンマ線を考えます。その理由は、ガンマ線の方が、放射化した体内から、 外部に容易に出てくるからです。 半減期が7秒であることから、毎秒約0.1崩壊の確率である ことがわかります。従って浴びた直後は、予測される(放射化した 人体からの)放射能は、毎秒約3x10の12乗となります。 これは非常に強い放射能というべき値です。
ただし、半減期が非常に短い(約7秒)のために、急激に放射能は 弱くなります。例えば、たった3分で、約1億分の1にまで減ります。 そのため、直後には放射化した人体からの放射能は比較的強くても、 数分で、治療可能な(自然放射能と同程度の)強さにまで減衰している、 ということが予測されます。 硫黄についても同様の計算が出来ますが、ここでは省略します。
でも、テレビの画像を見るかぎり、治療者は防護していないし、 そこのところが、どうなってるんだろうと不思議に思った訳でした。 先生のお返事で、すっきりした気がします。 誠に有り難うございました。